『男はつらいよ』が嫌い – というエントリの気持ち分かります。

先日、はてなで見かけたエントリです。

『男はつらいよ』 という作品が嫌い
子供の頃から見ていたので馴染み深い作品なのだが、どうにもこの作中に登場する車寅次郎が大嫌いだ。何が嫌いかというと、自分は好き放題して…

私もどちらかというと、あの手の人は苦手です。

まあそういうやっかいな男だから、映画にすると面白いのかも知れません。

ではいったい『男はつらいよ』のどこが面白いのかというと、毎回マドンナに失恋する、とかいろいろとありますが、その中の一つに「敷居の高さ」が上げられると思います。

とらやファミリーにとって、車寅次郎という存在はいったい何なのでしょう。

身内でもあり、部外者という感じもあります。

本人も渡世人を気取りながらも、しょっちゅう柴又が恋しくなっては舞い戻ってきます。

そして帰ってくるたび、「とらやのみんなは自分を受け入れてくれるだろうか」と不安にかられるようです。

ですから、寅さんが何の躊躇もなく店の敷居をまたぐことはありません。

いつまでも表でグズグズして中の様子をうかがっているのです。

ファミリー側はもちろん寅さんを歓迎します。

その一方で、この男の異常なまでのナイーブさを知っているので、「やっかいなことが起こらねばいいが」という一抹の不安も抱いています。

で、案の定ケンカになり、ついに一線を越えて、「それを言っちゃあおしまいよ」となり、寅さんは出て行ってしまうのです。

でもまたそのうち恋しさがつのり帰ってくるという、その繰り返し・・・。

(この前のことを謝ってしまいたい)

(でも、プライドもあるしやっぱり謝りたくない)

という気持ちがあるものですから、とらやの軒先で

ちょっと近くを通ったもんだからよ

などと言いつつ、まるでケンカなどしたっけか? てなふうを装うのです。

ファミリーのほうも

おお、寅。よく帰ってきたな。ちょうど今おめえのウワサしてたところなんだよ

とかなんとか言って受け入れる。

もちろんこの前のことを忘れたわけではありません。

(水に流してくれる? またオレを受け入れてくれる?)

(水に流すよ。だってお前は家族の一員だもの)

という声にならない会話を交わしあい、あうんの呼吸で和解し合い、そうして後、ようやく晴れて団らんを囲むということにあいなります。

メロン騒動というのは、シリーズの中でも屈指のエピソードのひとつです。

いただいたメロンをみんなで食べようということになり、人数分で切り分けるとき、おばちゃん(三崎千恵子)はわざわざ指さし確認をして人数を勘定します。

もちろん寅さんのことはすっかり忘れています。

この時点で、見ているほうは「こりゃひと騒動おこるぞ」と期待(?)するわけですね。

山田洋次監督十八番の前ふりです。

帰ってきた寅さんは、自分が忘れ去られていたことに異常なほどに哀しみます。

また、寅さんを傷つけないようにとファミリーがおもんぱかってメロンを隠したことに「そんな水くさい間柄だったのかよ! オレとお前たちとは」とさらに哀しみを増幅させます。

本当に面倒くさい人ですね。

みかねたリリー(浅丘ルリ子)が寅さんにむかって啖呵を切るのですが、このとき、寅さんは心の底では喜んでいるんだと思います。

部外者であるリリーが

まあまあ、みんな大人げないわよ

というおざなりな仲裁にとどまらず、ファミリーの中にぐいと踏み込んで、介入してきてくれたことがきっと嬉しいのです。

そこまで俺たちのことを思っていてくれるのか

と。

自分が愛するとらやファミリーを、リリーもまたこれほどまでに大切に思ってくれていたということに、喜びを感じるのが寅さんという男です。

これほどやっかいで理不尽な人もいません。

しかし見方を変えれば「受け入れてもらえるかどうか不安でしょうがない」「些細なことですぐに傷ついてしまう」

・・・そういうナイーブな男としてとらえれば、それほど腹も立たなくなるのではないでしょうか。

シリーズ後半は、滿男(吉岡秀隆)と泉(後藤久美子)に比重が移っていき、寅さんは恋愛アドバイザーみたいな位置づけに変わっていきます。

「寅さん=いい人」感が強くなり、
キャラがぶれた感じがなきにしもあらずです。まあ年齢的なものもあるので仕方がないでしょう。

そのため、「寅さん=いい人」という先入観のある人が、ささいなことで突然怒りだす(とくに)シリーズ初期の寅さんを観てとまどいを覚えるのは当然かも知れません。

しかしいくら欠点だらけであろうと、敷居を平気でまたぐことをせずいったん立ち止まらずにいられない、気兼ねせずにいられない、寅さんがそういう人間であるかぎり──って、映画なのでそうに決まっているわけですが──これからも『男はつらいよ』は愛され続けていくのだろうと思います。

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